《スウェーデン伝統料理》
Lussekatt(Lussekatter(複数形))
ルッセカット
光の聖人を称えるルシア祭 黄金色のサフランパン
暗闇を照らす 光の聖人ルシアを称える日
今日12月13日は、キリスト教の聖人ルシアの日。
聖ルシアは北欧で深く愛されていて、特にスウェーデンでは毎年各地で祝祭が執り行われます。
*スウェーデンの三大キリスト教行事は ①クリスマス ②イースター ③聖ルシア祭
ラテン語で光を意味するルクス(lux) が語源となる名前、ルシア(日本語でも明るさの単位は「ルクス」)。
その名前を持つ聖ルシアは、まだキリスト教が異端だったローマ時代に暗いカタコンベ(地下墓地)などに隠れ住むキリスト教徒のために食料を届けたという逸話があり、両手にたくさんの食料を持てるように頭にキャンドルをつけたことから絵画や人形などでもその姿で表現されます。
北欧における聖ルシア祭の定着は、キリスト教伝来前に行われていたこの時期の(旧暦の冬至にあたる)光の祝祭と、キリスト教の聖ルシア信仰が合わさったためだと言われます。
この時期のスウェーデン、ストックホルムでは日の出が8:30以降、日没は驚きの14:00台。
12月の『1ヶ月間の”合計”日照時間”が 0〜数時間』なんてことも珍しくなく、日中でも暗い長い北欧の冬において 聖ルシアがもたらす明かりは闇を照らすだけでなく未来への希望にもつながり、人々の心の支えになったのだそうです。
⇧スウェーデンで愛される聖ルシア。デパートのショーウインドウにはルシア姿の北極狐も登場⇧
聖ルシア祭とサンタ・ルチア
各地の祭では聖ルシアに扮した少女がキャンドルを灯したリースを頭に被り、その後に続く少年少女たちもキャンドルを手にして歌いながら行進します。その際に歌われるのが、日本ではナポリ民謡として知られるサンタ・ルチア。スウェーデン語では「サンクタ・ルシア」です。
⇦2023年、コペンハーゲンのスウェーデン協会(Gustafs Kyrkan)での聖ルシア祭。
*写真をクリックするとInstagram(動画、サンタルチアの合唱を含む)に移動します
聖ルシア祭の様子はスウェーデンの画家カール・ラーションや、絵本作家エルサ・ベスコフの作品にも描かれているほか、聖ルシアを模ったライトやキャンドルホルダーなどの製品も多くてこれがまた愛らしいのです。スウェーデンの人々がこの行事を特別に感じて大切に守っていることが伝わってきます。
そして、この日に食べられる特別なパンが、ルシアに象徴される光の色(黄金色)をしたサフランパン、ルッセカットです。一般的には『ルシアの猫』という意味ですが諸説あります(後述)。
謎が多い?ルシア祭のルッセカット
聖ルシアの日には子供達がルシアの衣装で両親の部屋にルッセカットを届ける伝統もあり、スウェーデン王室のInstagram(@Kungahuset)でも写真がアップされています。今年2024年はルシア姿のエステル王女、昨年2023年はエステル王女とオスカル王子がそれぞれルシアと星の少年(スターボーイ)の衣装でルッセカットを持つ写真でした。
それほど親しまれているルッセカットですが実はいろんな不思議と混乱があるようで、夫が調べてくれたり年配の方々へインタビューをするとかえって「あれ?」の連続に。これまで聞いていた話とずいぶん違うのです。
正確なことは誰にもわからないとのことですが、諸説の一部をご紹介させて頂きます✨
不思議その1_『ルシアの猫』ではない?
多くのスウェーデン人もルッセカットを『ルシアの猫』と解釈していて私もそう説明されてきたのですが、本来は『悪魔ルシフェルの猫』なのだとか🐈⬛
どちらが本当なのか、なぜなのかも諸説あるものの『ルシフェルの猫』説については、元々はドイツで悪魔ルシフェルが人々を惑わすために配っていたパンのことを『ルシフェルの猫』と呼んだから、という理由が一般的だそうです。個人的にいちばん納得した説は『猫に姿を変えて攻撃してくるルシフェルから人々や子供達を守るため、太陽(光)の色をしたパンを食べて悪魔を打ち払う意味があった✨』というものでした。
寒い冬の暗闇は人々を苦しめる悪魔
光は闇を打ち祓い、生命への希望をもたらす力
ルシアの語源はラテン語のLux(光)。スウェーデンで、光をもたらす聖ルシア信仰が盛んになった時期と、高価なサフランを使ったパンが一般の人にも普及したのはどちらも1800年代後半と言われていて、聖ルシアが配るパンのことを『ルシアの猫』と呼ぶようになったのも頷けます。高価なスパイスの代表でもあるサフランですが、そこから生まれる光の色・太陽の色をした黄金のパンは人々に希望と悪(暗く厳しい冬)に立ち向かう勇気も与えてくれたように感じられます。
不思議その2_『S字型』じゃない?
数あるサフランパンの中でも、最もポピュラーかつ聖ルシア祭に欠かせないのがS字型(っぽい渦巻き)のもの。
通常ルッセカットはこれを指しますが、それも厳密には違うのだそうです。
サフランパンにはスウェーデンの暮らしに基づいた様々な形が存在していて、それぞれに名前があります。S字型はその中のひとつの形であり本来の名前は Julgalt(ユールガルト=クリスマスの”豚”)🐖。
*スウェーデンのクリスマスにとって豚は特別。クリスマスディナーのメインは自家製の巨大ポークハム。豚を模ったチョコレートやマジパン菓子も人気です。
結論としては、ルッセカットはこの季節に食べるサフランパンの総称として使われること。本来のルッセカットはこのS字型のJulgaltのようなパンを2つ背中合わせにしたようなものらしい。ということでした。
とはいえ、この形と名前もサイトによって違っていたりします。スウェーデン人でも知らない人が殆どらしいのですが、それはそうでしょう。。どなたかこれぞ!という情報をご存知の方がいらっしゃいましたらぜひご教授お願いいたします。
ただ、一般にはこの形がルッセカットとして知られていますし、これからもこの豚さんがルッセカットとして愛されていくのだと思います。
形については、夫が見つけてくれたスウェーデン発祥の乳製品メーカーアーラフーズのWebサイトがとても参考になりました。写真(⇩)の上から2つ目、右にあるKuseが形としては一番似ているよね、と(サイトによっては、この形がルッセカットとして記載されています)。
サフランパンの様々な形と名前
*中央のパンから⇨12時の位置のパン⇨そして時計回りに
◎Luciakrona(ルシアの冠)
◎Julkaka (クリスマスケーキ)
◎Juloxe(クリスマスの雄牛)
◎Kuse(馬)
*サイトによっては、この形こそがルッセカットとして記載されています
◎Prästens Hår(聖職者の髪)
◎Pojke Eller Lindebarn(男の子or新生児)
*西洋で一般的だった、赤ちゃんを布で巻いていた姿
◎Gullvagn(黄金の馬車)
◎Julkuse(クリスマスの馬)
◎Julfågel(クリスマスの鳥)
◎Julgalt(クリスマスの豚🐖)
*コレが現在、一般にルッセカットと呼ばれて親しまれる形のようです
不思議その3_『レーズン』じゃない?
ルッセカットは形が何であれレーズンがちょこんと乗っていますが、こちらもオリジナルは少し異なるようです。
スウェーデンのお菓子やパンに使われてきたのは、伝統的にコリント(Korint/Korinter(複数形))と呼ばれるドライフルーツでした。コリントは小粒のブドウの乾燥加工品で、色は黒っぽくて酸味もしっかり、名前はギリシャの都市コリントスで栽培されていたことに由来します。
なので本来、ルッセカットに飾るのもコリントなのですが。
近年はスウェーデンでもあまり一般的でなくなっため入手が難しいことや、扱いやすさ・予算の意味からもほとんどの場合レーズン(乾燥ブドウ)が使われています。私の持っているスウェーデンの伝統菓子レシピ本でもレーズンと書かれていました。
おまけにこのコリント、多くの国でブラックカラントなどのベリー類と混同されているようで、もともと確かな知識があるわけでもない私が調べるといっそう混乱が増し…最終的にアメリカ国立衛生研究所のサイトで確認しました。
曰く、コリントはワイン醸造に適するとされるブドウ🍇ヴィティス・ヴィニフェラ種のひとつ。
つまりベリー類(カシス/ブラックカラント/クロスグリ等)ではなく、あくまでもブドウ。ではレーズンでいいよね?でもなく、一般的な食用レーズンとも異なるもの、だそうです。(学名は Vitis vinifera L., var. Apyrena )
私はレーズンもコリントの引き締まった味も好きです。
スウェーデン人が愛する聖ルシアのお祭りとルッセカット。この時期限定なので、12月にスウェーデンを訪れる方はぜひ召し上がってみてください。
⇧デパートのショーウインドウにもルッセカットを楽しむシーンが(NKデパート(ストックホルム))⇧